『色彩を持たない多崎つくると彼の巡礼の年』を今更ながら読んだ。
発売された時はかなりニュースになったことを覚えているのですが、最近のことかと思ったら2013年に発行された本なんですね。
時が経つのは早いです。
村上春樹にとって13作目の長編小説で、『1Q84』の後に出版された作品です。その後、2017年2月に『騎士団長殺し』が出版されています。
村上春樹の本は昔はなんだか苦手でした。と言いつつ『ノルウェイの森』と『海辺のカフカ』と短編小説しか読んだことがなかったのですが、、
主人公やその周りの人達の抱える闇が深くて、読んでいるとその闇に影響されて暗い気持ちになったことを覚えています。
でも、その後に読んだ『1Q84』は面白く、今回読んだ『色彩を持たない多崎つくると彼の巡礼の年』は更に面白く感じました。
『1Q84』も『色彩を持たない・・』も、病んだ人間はいたけれど、共に主人公が影は持ちつつもまともな人で、好感を持てたので、安心して読むことができたのかなと思います。
『色彩を持たない・・』の簡単なあらすじは、以下のとおりです。
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多崎つくるという、鉄道会社で駅の補修や改修などを仕事としている36歳の男性がいました。
彼は賢い年上のガールフレンドもおり、会社でも評価されており、一見順調な人生を送っているようにみえます。
しかし、高校の時に心を許しあっていた5人の友人グループから、大学に入ってから突然、理由も分からず縁を切られてしまった過去がありました。
それが多崎つくるにとって大きな傷となっています。
ガールフレンドからもそのことを指摘をされ、その4人に会って当時の話を聞いた方が良いと言われます。
ガールフレンドが調べてくれた4人の居場所などの情報を元に、つくるは1人ずつ昔の友人に会いに行き、話をする事で、彼が知らなかった事実が明らかになってきます。
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多崎つくるという人物は、親しい友人はいないけれど、社会的にも自立しており問題なく生活しています。
けれども、自分は色彩を持たない個性がない人間なのだと自信が持てないでいます。
私からすると、昔から鉄道の駅が好きで、今はその好きな駅の仕事に関わっているということ自体、羨ましく思います。
また、多崎つくるという人の発する言葉からも、彼が知的で穏やかな人物であると感じました。
そして、学生時代に心が通じ合った友人がいたということも、私には体験できなかったことなので、それだけで立派な人間に思えてしまいます。
なのに、何故、つくるが自分に自信が持てないのか、ずっと疑問を抱きながら読んでいました。
他のつくるの友人なども、つくるは色彩を持たない個性のない人間ではない、とつくるに伝え、私もその都度同意をしていました。
ですが、自分の周りにもつくるのような人はいると思います。
周囲から見たら、能力も人並み以上で自信を持って良いはずなのに、何故かどこか自信を持てないでいる人。
もしかしたら、そこが魅力ともなっているのかもしれないけれど、本人にとっては辛いのだろうなと思います。
つくるも、過去に友人に縁を切られたことで他人と深く関わることに恐怖を抱いています。
表面上の生活は穏やかだけれど、つくるの心の奥にある過去の悲しい気持ちに小説の中で触れることがあり、その時はどうしようもなく切ない気持ちになりました。
けれども、誰が悪いとは言い切れなくて、起きたことは避けることができなかったことなのかもしれないと、この小説を読むと思えてしまいます。
また、村上春樹らしい、日常ではあり得ないけれど、実はあるかもしれないと思ってしまうような、不思議なことも描かれています。(今回は、夢という形で描かれています)
過去の謎が、友人と会うことで徐々に解けていく過程も、この話を面白くしている一因であるかと思います。
長々と書いてしまいましたが、私のように、村上春樹の本が少し苦手だと思う人にも、是非読んでほしい作品でした。